ただ、実際には「そこまで決められない……」と悩んでいる人のほうが多いのではないでしょうか。その場合は、まずは将来的な選択肢を狭めないことを優先しましょう。大学病院はもちろん教育制度の整った総合病院などをめざせば、看護師としての基礎力を十分に身に付けられるはずです。 方向性が定まらない看護学生は、就職活動で看護観を問われることに戸惑うかもしれません。しかし、まだ看護師のタマゴである皆さんが看護観をうまく語れないのは、ある意味で当然のことだともいえます。キャリアを重ねるにつれ看護観も育っていく それでは、自分に合った志望先を見つけるためには、どういう思考の筋道をたどればいいのでしょうか。もし、自分が何をしたいのか、学びたいのかが明確になりつつあるのなら、その思いを大切に言語化してみてください。「ドクターヘリに乗ってカッコよく活躍してみたい!」といったことでも十分な指針になり、救急外来、循環器病棟、ICUなど、選択肢を具体的に検討することができます。「良い病院」「良い職場」で思い切り自分を磨こう! 近年では経営難に悩まされる病院も珍しくないだけに、ポストコロナ時代を迎えるにあたって「今後の社会で生き残る病院を選ぶ」という視点も必要になってくるでしょう。医療機関向けのコンサルティング業務を担ってきた私が考える優れた病院の条件は、2つあります。 まずは、優秀な人材をしっかりと確保できる病院。これは看護師に限らず、医師や他のコメディカル、医療事務、清掃員など、院内で働くすべてのスタッフが対象です。患者さんと接する職種すべての働きが「病院の価値」になるわけで、評価の大きな部分を占めます。SNSなどで口コミが広がりやすい現代だからこそ、とりわけ重要な要素だといえるでしょう。 そして、時代のニーズをキャッチして、柔軟に取り入れる姿勢がある病院。一般企業と比べると、医療の世界は「古き良き」を大切にする傾向があり、ともすれば旧態依然とした手法に固執しがちです。逆に言えば、新しいものに拒否反応を示さず、いいと判断すれば積極的に取り看護観は、現場でさまざまな経験を重ね、試行錯誤しつつ人間的に成長する中で徐々に確立されていくもの。私自身、多くの患者さんやご家族、一緒に働く仲間から学ぶ月日を積み重ね、ようやく「痛み(精神的・身体的・社会的)を緩和し、その人がやりたいことができるように関わること」という軸を持つに至ったのです。 つまり、就職活動で問われているのは、最終的な看護観ではないということです。あくまでも今の時点で皆さんが大切だと感じていることを、飾らず言葉にしてみましょう。「いい看護をしたい」はすべての看護学生が願うことだと思いますが、それが具体的に何を指すかを掘り下げていけば、必ず個性が出てきます。ポイントは「カッコいい言葉」に固執しないこと! これまでの人生を振り返り、実習などでの経験も踏まえて、心から大切だと思うことを素直に言葉にしていきましょう。背伸びしたメッセージに比べて、よほど相手の心に響くはずです。 こうして本音に向き合い、自分がどんな人間かを客観的にとらえ直すことは、就職のミスマッチを避けるという意味でも有効です。看護学生の多くは「自分と雰囲気が合う病院に行きたい」と考えるものですが、逆もまた然りで、採用側も自院にマッチする人柄や雰囲気を持っている人材かどうかをチェックしているのです(図3)。等身大の自分を正しく把握し、的確に表現する力があれば、きっとベストの志望先にめぐり会えるはずです。入れられる病院には大きな強みがあるということです。 このところ私が注目しているのは「ナッジ理論」という概念で、ちょっとしたきっかけを与えることで行動変容を促すというもの。例えば、ある病院では、日勤と夜勤でユニフォームの色を変えることで、看護師の超過勤務を大幅に減少させることに成功しました。こうした新たな提案を前向きに受け入れることは、経営面でプラスになるだけでなく、働きやすさにもつながるはずです。 たくさんのことをお伝えしてきましたが、最後に「君たちの未来は明るい!」というメッセージを送らせてください。患者さんとの関わりから多くを学び、生涯勉強を続けられる看護師は、本当に素敵な職業です。「私」ではなく「患者さん」を主語に据えながら誠実に努力していけば、必ずや信頼につながり、周囲にも素敵な人が集まってくるもの。私自身、そうして助けられながら前進してきたことを心から実感しています。ぜひ、全力で研鑽できる自分にぴったりの職場を探し、そこで看護師としての価値ある時間を過ごしてほしいと思います。「今後の社会で生き残る病院を選ぶ」という視点で志望先を検討しよう図3新卒看護学生採用において重視するポイント(複数回答)出典/マイナビ看護学生 2022年卒看護職員採用状況調査(2021年10月1日~10月31日、N=366)マイナビが全国の医療機関を対象に実施したウェブアンケートでは、新卒看護学生の採用で重視するポイントとして上記のような回答があった。コミュニケーション力、身だしなみ、成績などはもちろんだが、「人柄や雰囲気が自院に合っているか」を大切にしている医療機関は想像以上に多い。コミュニケーション力(質問に対する返答など)身だしなみ/言葉遣いの正しさ前向きな姿勢/人あたり素直さ志望度適性検査の結果人柄/雰囲気が自院に合っているか病院機能との適性自分なりの看護観小論文の出来学業成績誤字脱字が少ない・文章が読みやすい87.4%67.8%58.2%85.5%62.0%57.9%54.1%21.0%42.3%19.1%39.3%15.3%40
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