日本が急速に発展した高度経済成長期、全国各地に橋や道路といった社会インフラが次々と建造されていった。そこから50年以上の歳月が経過した今、数ある当時の構造物が劣化し、深刻な事故の発生も懸念されている。そんな状況を改善するべく、保全工学研究所では、コンクリート構造物に潜むひび割れや浮きなどの劣化や損傷状態を調査することで人々の安全を守る、「保全」に挑み続けてきた。社内ではさまざまな背景を持つ人材が活躍している。入社3年目の笹原さんは、大学院時代、コンクリート材料について研究していた。当初は“作る”側のゼネコン就職を希望していたが、同社と巡り合って“守る”側の仕事に大きく惹かれていったという。「劣化し続ける建物を診断し、長寿命化を実現するこの仕事の、社会的な意義を強く感じるようになりました。最終的な入社の決め手は、社員から漂う柔らかな雰囲気。説明会などで若手の先輩が気守る仕事に惹かれていくさくに話しかけてくれて、わかりにくい事業内容を丁寧に解説してくれたことから、安心して働けると直感しました」技術2課に配属されてからは、橋や浄水施設などのコンクリート構造物の診断に携わっている。作業着を着て建造物が立つ現場に訪れ、各種検査を行うことも大切な業務だが、検査前後のプロセスにも深く関わっている。実際、自治体との打ち合わせ、検査手法をまとめた企画の提出、大量の写真やデータなどを添付した報告書作成など、オフィスワークも非常に多いという。笹原さんの専門分野は建築学だが、今の担当案件は土木構造物が中心。最初は戸惑いを感じたが、先輩たちが理解できるまでとことん付き合ってくれたおかげで、2年目には一人で案件を任されることになった。「学校の外周を囲む擁壁の調査だったのですが、技術的な知識以前に苦労したのがコミュニケーション。作業内容を協力会社に伝2年目に大きな挑戦を経験えるにしても、どうすれば認識の齟齬なく理解してもらえるか、試行錯誤の連続でした。行き詰まったとき先輩に電話すると、基礎の基礎から教えてもらえたのが本当に心強かったですね」次第に難易度の高い案件を任されるようになり、3年目には臨海地区の倉庫の基礎調査を担当。大正時代の建造物だっただけに図面もなく、基礎を掘り起こして調査し、自力で図面を描き起こすといった難題にも果敢に挑んだ。その中で身に付いたのは、因果関係を明確にする姿勢だという。「漫然と点検を進めるのではなく、どういうメカニズムで劣化が進んでいるのか、最適な補修方法は何か、逐一、細かく考える習慣が身に付きました。もちろん簡単に原因は見つかりませんが、人々の安全に関わっているという責任感を持って、丁寧に仕事をしています」地道な努力を重ね、改善案をまとめた報告書が仕上がったときは、構造物を未来につなげることができた充実感でいっぱいになったという。正確な検査には、入念な事前準備が不可欠。笹原さんは学生時代、コンクリートの実験のために手順を踏んでしっかりと計画を練り上げていた。その経験は今、仕事でも大いに生かされているそうだ。保全工学研究所では、新しい技術を使った検査にも取り組んでいる。中でも赤外線カメラやドローンの活用、画像診断ソフトといったデジタル技術の活用に注力してきた。こうした新技術の活用はもちろん、笹原さんは今、一級建築士資格の取得にも挑戦中。「現在、試験対策の学校に通学しています。会社が費用を負担してくれるだけでなく、有資格者の先輩も、勉強のノウハウを余すところなく伝えてくれています。全面的な支援を受けられるのがありがたいですね」同社の技術者は今、約半数が20~30代の若手で占められている。同年代の社員が高い目標に向かって自己研鑽に励んでおり、笹原さんも日々刺激を受けているという。培ってきたノウハウや技術を新しい人材に継承することなくして、未来に建造物を残すことはできない。次世代の「保全」のプロフェッショナルが、同社では着実に育っている。保全の新たな地平を開拓本社所在地:東京都株式会社保全工学研究所CHECK THE NAVI詳しい情報は81
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