意識してみてください。加えて、「自己効力感」にも注目しましょう。これはカナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、人が行動するときに「きっとうまくいく」とイメージできる期待や自信を持つことを指します。何か新しいことにチャレンジするとき、欠かせない感覚だといえるでしょう。自己効力感を高める方法は簡単で、達成体験の絶対量を増やせばいいのです。残りの学生生活でたくさん「できた!」という経験を積み重ねていきましょう。「授業中に1回は質問する」「研究発表で肯定的なコメントをする」など小さなことでかまいません。大きなことを成し遂げるよりも、失敗してもできるまで続けて達成の回数を増やすほうが効果的です。また、自分以外の他者が物事を達成している様子を観察することも有効だといわれています。これは代理経験(モデリング)と呼ばれ、「自分にもできそう!」「やってみようかな?」と気持ちが前向きになりやすくなります。自分に能力があること、あるいは達成の可能性があることを言葉で繰り返し「説得してもらう」方法もあります。先生や友人、家族からの励ましの言葉がこれに該当するでしょう。しかし、言語的説得のみによる自己効力感は消失しやすく、自分で達成体験を積み重ねる方法に勝るものではありません。どこでも活躍できる人材が備える「ポータブルスキル」とは?医療業界の変化は激しく、入職先が吸収・合併されたり、グループ化されたりすることも考えられます。それに備えるためにも、薬学生のうちから養っておきたいのが「ポータブルスキル」(表2)。その名の通り「持ち運べるスキル」であり、これら5つの力を持っておけば、どんな状況になっても皆さんは必要とされ続けるはずです。中でも注目したいのが、①専門能力と⑤自己表現力です。優れた専門能力は、薬剤師が高い評価を受けるための第一条件だといえるでしょう。薬学そのものの知識はもちろん、処方監査や服薬指導、在宅医療、OTC医薬品などに関する理解、さらには臨床での実績などが幅広く求められます。日本人は社然として、教養や雑談力が物を言うこともあります。こうした力は、社会人になった途端に身に付くわけでもなく、学生である今のうちから意識的に伸ばしていくことを強くお勧めします。大学やインターンシップ&キャリアでのグループワークなどを通しても鍛えられますし、他学部に通う友人との情報交換も学びになるでしょう。所属する組織外の人々と交わることは、自分にはない物事の見方を知ることにつながるので、社会人になってからも心がけてほしいと思います。内定取得はゴールじゃない職業人としての人生が始まる以前、ある調剤薬局で新人研修を担当したとき、かなりボーッとした様子の男性がいました。どうやら国家試験合格と同時に燃え尽き症候群になってしまったらしく、残念ながらまったく覇気が伝わってきませんでした。しかし、2年目の研修時には、顔つきが見違えるようになっていたのです。驚いて事情を尋ねると、彼はこんなことを教えてくれました。会人になると勉強しない傾向が強いともいわれていますが、自分の価値を高めるためにも、生涯にわたり学び続けることが大切です。もう一つのキーワードが自己表現力です。医療現場のカンファレンス、あるいは企業での会議といった場面では、さまざまな立場の人と議論を交わすことになります。どんなに優れた考えを持っていたとしても、それを表出できなければ意味がありません。「自分はどう考えているか」「今の話に何を感じたか」を適切に表明できる力は、どんな職場で働くにしても必須になるでしょう。例えば、在宅医療に関わる場合は、患者さんやご家族はもちろんのこと、かかりつけ医や訪問看護師、ケアマネジャー、ホームヘルパーなど、さまざまな職種と協力体制を築くことが求められます。このとき、優れたコミュニケーション能力は当「半年前、在宅療養している40歳代のがん患者さんの担当となりました。僕の年齢を聞かれたので答えると、『時間ってあるようでないよ。人生なんてあっという間だから、何にでも挑戦してみな』と……。その患者さんの看取りまで関わる中で、いかに自分が何となく生きてきたかを思い知らされました」貴重な経験をきっかけに、今では医療人として職場の誰よりエネルギッシュに働いているそうです。志望先から内定を得ること、そして薬剤師資格の国家試験に合格することは、大きな達成感をもたらしてくれるでしょう。しかし、だからといって「ついにゴールに到達した!」と思ってはなりません。薬学部からの卒業は、皆さんが職業人としてスタートラインに立ったことを意味するに過ぎないからです。親の庇護の下を離れて自立した社会人になるということは、あらゆる選択の責任を自分で負うことを意味します。後悔しない人生を、ほかの誰でもない自分自身でつかみ取ってください。皆さんの人生は、今こそ始動の時なのです。表2薬剤師の5つのポータブルスキル薬剤師としての専門知識や経験、スキルなど専門能力1どんな薬剤師になることをめざし、具体的に何を実現したいかという目標薬剤師として働く明確なビジョン2自己の意思や判断において、自ら進んで行動する力実践行動力3自分とは異なる価値観や方法を受け入れ、自分の考えも伝えながら信頼関係を築く力柔軟性4自分の思いや意見を的確に伝える力自己表現力5所属する組織外の人々と交わることで、自分にはない物事の見方を知ることができる20
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