薬学生のためのインターンシップ&キャリアガイド 夏号2027
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えてみましょう。DXに乗り遅れてしまうと、薬剤師が対物業務に手を取られる状況が続き、患者さんとの関係づくりが難航。売り上げが下がったり、コンプライアンス上の問題が生じたりする恐れがあります。また、働き方改革に向けた対策も難しくなるので、慢性的な人手不足に悩まされる可能性が高いでしょう。当然ながら、法人としての生産性や収益性にも影響を与えるはずです。 臨床的なリスクについては、皆さんも想像しやすいでしょう。「ミスなく素早く正しい薬剤を渡すこと」だけに薬剤師が忙殺されている環境では、一人ひとりの患者さんに向き合うことなどできません。個別性を踏まえた服薬指導、副作用の的確な把握、タイムリーな服薬中フォローアップといった本来的な業務からは遠ざかってしまい、人手不足の現場ではこれから一層厳しい状況になります。薬剤師が本来の職能を発揮するためにも、患者さんへの付加価値を高めるためにも、DXは大きな意味を持つのです。「デジタル接点」の創出がDXの大きな意義 調剤薬局におけるDX推進において最大の意義の一つが、患者さんと医療の「デジタル接点」をつくることができる点です。そもそも、地域に根差した調剤薬局に所属する薬剤師は、医療や薬学の知識を幅広く備えたスペシャリストであり、患者さんのリアルな情報を誰よりも収集しやすい立場にあるといえます。患者さんが診療や服薬指導を受けて地域に戻った後、何らかの問題が生じた際にいち早く気付いて解決に導くことができる存在になれるはずです。もちろん、これまでも薬剤師はそうした役割を期待されてきたわけですが、DXによって患者さんとのつながりが強化されれば、「食生活が大きく変わった」「最近眠れない日が続いている」といった有用な情報をさらに入手しやすくなります。 ある情報が有用であるかどうかは、新規性があるか、タイムリーに提供されるかにかかっています。天気予報で考えても、今日や明日の情報には大きな価値がありますが、わざわざ2週間前の情報を求める人は少ないですよね。DXが推進されれば、新たに得た情報をスピーディに、医師やケアマネジャーなどに共有することが容易になります。「薬剤師からは本当に有用な情報が届く」という定評が得られ、より大きな存在感を発揮することにもつながるでしょう。 さらに、こうして入手した情報に対応し続けるためにも、マンパワーで押し切ろうとするのではなく、テクノロジーによるサポートが不可欠です。一例として、服薬中フォローアップについて考えてみましょう。ある調剤薬局が1カ月当たり1000人、毎日50人程度の来局者に対応しているとします。その日に来ていない患者さん950人全員に、毎日電話をかけるなんてことは非現実的ですよね。何らかの方法でスクリーニングをする必要があるわけです。 例えば、当社が提供するPocket Musubiを活用すれば、LINEのシステムを生かした専用ツールで継続的に患者さんをフォローできます。処方内容に沿った状況確認の質問を自動配信し、回答内容に問題がある場合はアラートで通知される仕組みです。薬剤師は状況に応じてフォローのメッセージを送ったり、電話をかけたり、すぐ医師に連絡したりと「本当に必要なアクション」を起こすことができます。可能な部分は自動化するなどして技術で補い、人間が介在すべきところに労力を集中できることが、DXの最大のメリットだといえるでしょう。「商圏」が広がる薬局業界で選ばれるために 2023年には電子処方箋のシステムが運用開始され、オンライン服薬指導も少しずつ普及してきDXを推進した調剤薬局のイメージ図※。病院・クリニックと調剤薬局が電子処方箋管理サービスで連携し、患者さんの情報をリアルタイムで共有。薬剤師は薬局外からオンラインで服薬指導を行い、患者は来局が不要になっている。薬剤の受け渡しは、自宅への配送や宅配ロッカーの活用などが想定される。タイムリーな患者情報が診察の参考になる!診療も服薬指導もオンラインだからラクラク!コンビニやロッカーで受け取れるよ!患者さんの近くまで届けるよ!自宅でも投薬後のフォローができるから安心!医薬品の取り揃えは任せて!患者(自宅等)処方薬の受取オンライン服薬指導薬剤師(自宅等)調剤薬局電子処方箋(専用サーバーを経由)医療機関調剤委託処方薬輸送宅配ロッカー等機械化が進んだ調剤薬局図1※図は経団連の提言・報告書「Society 5.0時代のヘルスケアⅢ」 「調剤・服薬指導」を基に作成しています(https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/005.html)67

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