デジタル技術の活用ができる患者情報の収集ができる専門性を発揮できる周囲の関係者との連携ができるました。こうした変化は薬局や薬剤師のみならず、患者さんの動きにも影響を与えます(図2)。処方箋の原本を持ち込む必要性がなくなったことにより、「とりあえず通院先か自宅に近い調剤薬局に行く」という行動原理は弱まっていくはず。患者さんからすれば、調剤薬局を選ぶときにアクセスを考慮する必要がなくなるわけで、各々の健康上のニーズに沿った選択が当たり前になっていくと考えられます。薬局側からすれば、いわゆる商圏(ターゲットとなる顧客が暮らす範囲)がグンと拡大した、とも表現できます。 もう少し具体的に考えてみましょう。がんに罹患し、在宅で抗がん剤治療を継続することになった患者さんがいたとします。薬剤の使用法や副作用に関して不安を抱えていたら、薬剤の受け渡しがスピーディな薬剤師よりも、抗がん剤に詳しい薬剤師に頼りたいはずですよね。処方された薬剤の種類によって、「バイオ製剤に精通した薬剤師に相談したい」など細分化したニーズが発生することもあり得るでしょう。自分が何を得意とする薬剤師なのかを明確にし、それを知ってもらうための工夫が欠かせなくなるわけです。 こうした状況下では、薬局や薬剤師に明確な「格差」が生じることが予測されます。ただ処方箋が来るのを待っているような姿勢では、生き残ることが難しいかもしれません。これからの時代に選ばれる薬剤師であるためには、「患者さんの情報を的確に収集できる」「周囲の関係者と密に連携できる」「自身の専門性があり、それを周囲に発信している」という3つの要素が欠かせないと思います。そして、それらを成立させるための大前提となるのが、これまでお伝えしてきたようなデジタル技術の活用なのです(図3)。思考停止することなくDXの波を乗りこなそう DXに関連して、近年ではAIの台頭も欠かせないトピックだといえます。現時点での生成AIでは、インターネット上の情報を自動で集約する、文章を要約したり画像を生成したりする、といった技術が中心です。薬局においては、「トレーシングレポートや薬歴を効率的に作成する」といった活用の仕方が想定されるでしょう。業界特化型のAIも出現し得る時代に入っていますし、薬剤師のアセスメント補助として活用する時期も遠い未来ではない状況です。リアルな対話、フォローアップからの情報、AIからの情報を複合的に判断して、薬剤師が効率的かつ質の高い対応をする時代になるかと思います。 こうした技術は日進月歩であり、数年後がどうなっているかを正確に予測することは不可能です。未来が不確実だからこそ、私たちはアジリティー(目まぐるしい変化に即応する機敏性)を大切にしなければなりません。「どちらに進めばいいのだろう?」と不安げに話し合ってばかりいて、立ち止まってしまうことが最大のリスク。ゴールが見えないから走り出さないのではなく、まずはスタートを切ってみて、「少しずれているな」と感じたら軌道修正する力が重要です。 つまり、過去の常識にとらわれず、今の状況で最大の価値が実現できるよう、柔軟に変化を遂げられる組織こそが強い時代だといえます。これは、個人についても同じこと。決して思考停止することなく動き続け、その時点での最大のパフォーマンスをめざしましょう。薬学生の皆さんがDXの波をうまく乗りこなし、これからの時代にも活躍し続けられる薬剤師になることを心から願っています。DXが進むということは、これまでアナログだった情報がデジタルに置き換えられ、「見える化」されるということ。その影響は薬剤師のみならず、薬局経営や患者さんにも波及していく。より具体的な内容は、72ページの「DXで調剤薬局の世界はこう変わる!」をチェックしてみよう。調剤薬局における「商圏」が広がり、患者さんが薬局を選ぶ視点が変化するからこそ、求められる薬剤師であり続けるためには、右記の「3つの力」が不可欠に。そして、そのすべての要素を支える土台となるのが、デジタル技術を活用する力だ。DXで情報が「見える化」される薬剤師の働き方・役割薬局経営の在り方患者さんの動線図3図2DX基礎講座薬学生のためのDXで変わる3つの変化薬剤師に求められる3つの力INTERVIEW WITHYUTAKA NAKAOChange!Change!Change!68
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